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作者無し / 同時再生の夢 (CD)

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同時再生の夢。それは人が受け身でありながら、如何に能動的に振る舞えるのか、という意識の淡い、その臨界点を探る試みのひとつとして提示された。ひとことで不遜と言えば、そうなのかもしれない。或いは享受と矜持の履き違え、確かにそうなのかもしれない。それは度重なる誤解と誤読により奪還した、明確な意志に基づく可能性についての話である。端的な例をあげれば、ある大学病院では教授が、正常妊娠子宮を子宮筋腫と誤診したので、主治医は真実を知りつつ、若い未来の母から一切母性となる可能性を奪う全剔出を敢行した。若い未来の母に残されたのは胃の上の羊水であり、要するにそこに存在しないもののために紡がれた歌という訳だ。中井久夫が楡林達夫という別人格を半ば分裂的に召喚しながら医局にメスを入れたのと同様に、「彼」はスピーカーから流れる歌に自らの音を重ねた。それはまるでVRゴーグルを装着して行われる自慰行為だ。バーチャル・リアリティとは、現物・実物ではないが機能としての本質は同じであるような環境を、ユーザーの五感を含む感覚を刺激することにより理工学的に作り出す技術およびその体系を指すひとつの概念であるが、ゴーグルの内側に迫り来る女体に触れるとき、私は自身の臀部に触れている。女優が画面を見切れて口を開いたとき、私はinゼリーを喉に流し込む。まさに仮想怨霊を前に自家発電を引き起こしているに過ぎないのだが、この無謀とも徒労とも思える行為の果てに「彼」の思い描いた音楽が反響していたとしたら……。かつて私はVRゴーグルを装着したまま意識を失い、深い眠りに落ちたことがあった。どれくらいの時間が経過していたかは判然としないが、ハッと目覚めたとき、視界が黒く覆われたことに、恥ずかしながらはっきりと取り乱した。両目を開いているという意識とは裏腹に、目の前には暗闇が広がっており、私は何らかの脳の損傷により完全に盲いたと錯覚し、射精後の虚脱症状も手伝って、すべてを手に入れ、すべてを失ったような漠然とした全能感と漠たる絶望に打ちひしがれた。あのときの感覚を「彼」の作品は確かに思い出させてくれた。既視感と陽炎の狭間に揺らぐ井上陽水の歌は、未来の母が口ずさむ筈だった子守唄のように私を不安にさせる。その後もどこか聞き覚えのある歌は、現実のダイナミクスにより攪拌され、絶えず根拠を揺るがしてくる。いまこの時代に他者との接触を図るといううえで、これほど誠実な試みが他にあるだろうか?森と子どもがリトルネロを発動させるように、不安な私はまたしても「彼」の手引き/手弾きにより、同時にいくつかの再生ボタンを押している。
Text by DJ PATSAT

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